中和

 まあ驚いた。日本語を自由に操ることが出来るようになると、ここまで楽しいのかと見直した。僕が知っているかの国の子達は、働くことを目的にやってきているから、日本語は来日してから最低限仕事に必要なものだけ覚える。僕と偶然知り合った子達は必要に迫られて日常会話を辛うじてこなせる程度には上達するが、今日の4人は段違いだ。 今日、奈良から訪ねて来てくれた4人は、それぞれが目的を持って来日している。すでに向こうにいたときから専門的に日本語を勉強していたこともあるが、日本人とほとんど遜色ない意志の疎通が出来る。日本人の集まりと錯覚しそうなくらい精度の高い日本語が飛び交う。そして今日僕は発見した。彼女たちは、いや彼女たちのお国柄はとても快活で陽気なんだと。今まで知り合ったいわゆる研修生達は、それぞれが目的を持っているにしても、どこか過酷な労働のせいで覚悟が支配しているような印象を受けた。それがこの4人には全くない。  日本のくだらない番組などよりは数段上質な笑いも届けてくれた。いつもなら僕が笑いをとって緊張の糸をほぐすのに努めるのだが、今日は全くの受け身で緊張感から解き放たれた。このところこの国のエライ奴らの悪意にうんざりさせられることばかりだが、こうした名もなき人達の善良が懸命にそれらを中和してくれる。