自尊心

 全く自分の意志に反して帰国を強いられた女性が、一念発起して再来日し日本の大学に入学した。日本にいる間に働き貯めたお金で国に帰り日本語学校で学び、念願かなって日本の大学に入れた。勿論、入学までのお金は蓄えていたのだろうが、その後の授業料や生活費はアルバイトが頼みだ。もし健康を損ねたらその日からお金に困るだろうに、そんなことを考えたら日本になんか来られないのかもしれない。若いから元気、こんな危うい前提で日本にやってきている。  授業が終わると、少しの休憩の後アルバイトに出かける。帰るのはほとんど深夜の12時頃だ。そんな日々の繰り返しで勉強など出来るわけがない。同じ東南アジアから来ているある国の学生は、すでに数カ国語を操ると言うから、貧しさ故に国で学校に行けなかった彼女たちに勝ち目はない。「お父さん、残念ですね。勉強できない。良いことでないですね」  多くの留学生が実は勉強目的ではなく、日本で働くために来ていることは、周知の事実だ。時に本当に学びたい人もいて、アルバイトの時間をセーブしている人がいるが、彼女は本当に学びたくて、なおかつお金がないのだ。国で誰の応援も得られなかった彼女は、稼がなくてはならないのだ。確かに良いことではない。折角向学心を持ってやって来ている子が、勉強をする環境にないなんて。国も企業もそんなの十分知っていて、安あがりな労働者として「輸入」しているのだ。人間の姿形をしている学生という名のロボットだ。 日本に来る前は看護師になると言っていたのにすでに諦めたようだ。それも学業不振を理由に。母国なら簡単になれそうな素質を持っているのに、経済に行く手を妨げられ、志を断念した姿に心が痛む。嘗て労働者として自尊心を傷つけられ、今度は学生として自尊心を傷つけられる。この国は弱者に対してだけ強い。