地引き網

 最早我が家の年中行事になったツバメを守る会も、やっと今年のお勤めを終えた。一昨日無事雛たちが巣立った。 去年成功したカラス撃退法がまんまと今年は見破られて、1回目の雛は孵らなかった。無惨に巣を破壊され、散乱した卵の殻を見て、娘がある手段を思いついた。今までのすだれ作戦が歯が立たないのだから、それに優る防御が必要だと思ったのだろう。そこで買ってきたのが、長さ10メートル、幅2メートルくらいの、布だ。布と言っても細かい編み目様のもので、透けて見えるし、軽い。それで軒下の全てを覆うというものだ。そうすれば、ほんの少々の隙間を残してやれば、ツバメは素通りできるけれどカラスはとても入れない。第一羽ばたきが出来ない。これならさすがのカラスも歯が立たないだろうと思ったら案の定、以来カラスは近寄りもしなかった。  ただ、この布を毎晩軒下に吊す作業は大変だった。西から東にいくつもの窓の外を手渡しで、拡げるのだから落ちそうだった。2階と言っても店舗の2階だから結構高くて、高所恐怖症の僕には負担だった。恐らく知らない人が見たら陸で地引き網をしているように見えただろう。そんな地引き網を2週間以上は繰り返したと思う。  それでも弱者を強者から守るのは気持ちがいい。達成感に浸っている。事人間様の世界では、強者が弱者を思いのままに操っている。人間と言うツバメは地引き網で守ってもらえることもなく、むしろ進んで地獄への道を歩んでいる。だが、道連れには絶対されたくない。