上積み

 今までどのくらいの機関を訪ね、どのくらいの治療を受けたのか分からない。又僕らのような薬局もその中に入っているのかもしれないが、詳細は分からない。 僕にとってはありふれた相談内容だったが、今まで恐らく積もり積もった不信感?失望?が一気に噴出したのかもしれないが、治療そのものに懐疑的で、何故僕に接触してくれたのか分からない。口から出てくるのは、嘗て受けた治療の功を成さなかった事例ばかりで、僕が関わるかもしれないことに関して希望は聞かれなかった。なるほど色々な機関で、それだけ効果を感じることが出来なければ、過去を洗い流して新たな希望を持って治療をするというのは困難かもしれないが、しかしその全ての過去の体験は僕とは全く関係ないことばかりだ。もっと有り体に言えば、僕の責任でも何でもないことなのだ。僕は自分の未熟さを良く知っているから、そしてよそ様とは圧倒的な地理的なハンディーを持って仕事をしてきたから、信頼関係なく始まる治療はお断りするようにしている。ただでさえ、僕ら田舎の薬局に接触してきてくれる人は、何処に行っても駄目だった方が多くて、それも又ハンディーを最初から背負っているようなものだ。だから、信頼関係という、大きな要素なくして人並みの仕事さえ出来ない。  ただ言えることは、所詮僕らの職業に相談してくれる人の症状は難病ではないってことだ。難病ではないから治って当たり前のものってことだ。人が本来備えている自然癒力は本当に偉大で、それがあるからこそ人はほとんどの日々を健やかに過ごすことが出来ると思っている。非力ながら日々懸命に勉強しているのも、その力を導き出したいが為だ。そして幾多の不信の上に僕が又一つ上積みすることだけは避けたいと思っている。