気軽

 失敗した。もう少し演出しておけば良かった。でも僕が得たかった情報は体温だけだったから、体温を測っただけで何もしていない。 秋にヘルペスを発症したと言うおばあさんが、「病院にかかっているけれど、全然痛みが良くならん。どねんかして頂戴」と訴えてやって来た。胸を押さえたから肋間神経に沿って出たことは分かる。あるトラブルで昨年手術をしたことを知っているから、体力(免疫)が落ちていたことも分かる。後は体温さえ分かればヘルペス後遺症の漢方薬など簡単に作ることが出来る。体温も今はおでこに近づければ瞬時に測れる機械があるから大した作業ではない。しめて何分の出来事だったのだろう、2分?3分?それで終わり。「ちょっと買い物をしてきますわ」と言って出ていった。  薬局にヘルペス後遺症でやってくる方のほとんどはもうかなりの年季が入っていて、この方のように半年以内なんてのはまれだ。だからその様なタイミングできたおかげもあるが、とてもよく効いて、2週間分で痛みが半分に、その後又2週間分で3割くらいに軽減した。この程度だと本人は全く辛くない。気になる程度らしい。  短い立ち話で治ったから、本人の僕に対する態度は今までと何ら変わりない。ありがたく思っているのかどうかも疑わしい。風邪薬を買って、治ったのとあまり差はないみたいだ。この光景こそが僕をいつまでたっても田舎のおじさんにしてくれている引力だ。どうしても僕をそれなりには見てくれないし、意地でも見たくないらしい。こちらもそれが分かっているから、意地でも品のない態度で接するが、効果だけは大都会のカリスマたちに負けないように出す。どんな結果を出しても尊敬されない解放感は一度味わうと抜けられない。肩書きも評価もないない尽くしの気楽さは、何にも代えられない。田舎で仕事をする最大の恩恵かもしれない。地で行けばいいのだから気軽なものだ。当然財布の中身も軽くなるが。