覚悟

 その女性は帰る前に微笑んで「頑張りましょう」と言った。知らない人が聞くと何のエールかと思うが、最近同じような連帯感の表明を多く経験する。  痴呆が日々進みつつある母と同居しているお陰で、痴呆についての理解が深まり、薬局に紙おむつ等の介護用品を買いに来る人と対等に話が出来るようになった。以前は、聞きかじりの知識だけで、如何にも分かっているような素振りをしていたが、今は訴えのほとんどが実感を込めて理解できる。同じだなあと感慨に浸ることさえあるし、同じ症状でありながら耐えている人達に勇気づけられることもある。 職業的に患者さんの家族と同じ地平に立てる条件を貰ったことが唯一母の介護をしていて良かったことだろうか。もっとも僕がしているのではなく妻が全部してくれているのだが、その様子も含めて、色々気付きは多い。  もう僅か何十年後かの僕の姿なのだと言い聞かせながら日々対峙しているが、数年前には「ありえない」母の姿に戸惑いながら、自分も覚悟を問われている毎日のような気がする。