苗字と名前それぞれに金という字を持っている珍しい女性。70歳を越えているから元々は、名前の方の一字だけだったのが結婚して二つ揃ったのだろう。こういった苗字に出会って、物珍しそうにしたら相手に失礼だ。特に金なんて言葉が二つも並ぶと下品な印象を持つ。だから僕はその女性に言った。「余程お金が好きなんですね?」と。  余りにもストレートすぎて、以来3年くらい毎月必ず一度はやってくる関係になった。ある慢性病で進行性のものなのだが、3年の間全く進行していない。病院の血液検査のデータは、3年前とほとんど変わりない。寧ろ見た目などは随分と元気になってくれた。  その女性が息子さんの相談をしてくれた。ストレートをカーブのように投げるのが僕の特徴なのだが、僕の癖が分かってくれて信頼してくれているのだろう。ところが息子さんに出した薬を見てその女性が見覚えがあると言った。少しの間考えていたが、すぐに思いだしてその薬局の名前を教えてくれた。「昔、○○さんに勧められたことがあります。こちらでも勧められるのだから余程いいのでしょうね」岡山市内の方だから本来的には僕の所は遠い。僕の薬局を知らなくて当然の方なのだが、数年前から突然にやってきてくれるようになった。その方が口から出した薬局の名前は、僕がお世話をさせて貰っている漢方の勉強会の先輩だ。先輩と言うより恩人と言ってもいい人で、素晴らしい勉強会に入会することを許してくれた人だ。亡くなってもう随分経つが、未だ僕を助けてくれている。  この様なケースは本当にまれで、嘗て利用していた所(薬局、病院、ドラッグ)の悪評の方が圧倒的に多い。投資したお金や時間や労力に見合う効果が得られなければ、誰だって否定的になるだろう。肯定を得るにはこの仕事はなかなか難しいと僕も肝に銘じている。 名前に金を二つ重なる人にあやかって、仕事で金をたまには取りたいものだ。