要求

 そう言った見地から自分の町(県)を見たことはなかった。  震災後牛窓に移ってきた若い夫婦が今日教えてくれた。確かに岡山県は災害が少ないと言うことでは有名だが、原発事故があっても比較的周囲の原発から離れているから被害が少なくてすむ確率が高いという評価だ。よその地域を知らないから、又そんな比較があることも知らないから、伊方や島根がめっぽう近いと不安はかなりある。立地県に負けないくらい不安だ。とくにその両者が西に位置するから不安は余計だ。ところがその夫婦は「岡山県は今安全面で話題ですよ」と教えてくれた。  そう言われれば、さすがに避難した台風は一度だけだったし、それ以外に幸運にも災害を知らない。南海地震もかつてあっただろうが、津波がここまで達したという話を老人から聞いたことがない。ハザードマップは一気に危険度を増したから、僕の家も当然危ないのだが、少なくとも過去の地震では大丈夫だったのかとかすかな期待をする。勿論東北沖地震を目撃してしまったから、多くのものを失うことは最早避けられないような気もするが、責めて人災にだけはやられたくない。いい目の限りを尽くした奴らに、命を縮められるようなことはされたくないし、そいつらが無罪放免で、いやそれどころかそれ以後もブクブクと私腹を肥やすのを見せられるような屈辱は味わいたくない。どうして東北の人達が耐え、どうして首都圏の人達が逃げなければならないのか。そうした状況を作った奴らがどうして檻の中に入れられないのか。加害者がぬくぬくと暮らし、被害者が不自由を覚悟で逃げ出す。こんな理不尽をどうして許してしまうのだろう。  控えめな要求しか口にしない若い夫婦を見ていて、「動かずの大和」の心も少しだけ動いた。