馬鹿

 全く品がなくて恐縮だが、僕が硬貨から連想する一番のものは、昔チャールスブロンソン演ずる男が夜な夜な出かけ、靴下に沢山詰め込んだ硬貨を武器に街のごろつきを退治するシーンだ。再放送を含めて2回見たと思うが最初に見たときに、果たして硬貨の固まりがそんなに強力な武器になりうるのかと疑問を持った。それ以来数十年、その素朴な疑問を立証してみようと思わなかったから、硬貨の固まりを意図して沢山持ってみることはしていない。  捨て犬を保護するNPOに協力して募金箱を1ヶ月くらい薬局のカウンターに置いていた。漢方薬の勉強に1週間に一度やってくる薬剤師が、その保護センターでボランティアをしている関係で頼まれたものだ。縦横10数センチ、高さは20センチ近くあるだろうか。その募金箱の3分の2くらいが硬貨で埋まったから、今日薬剤師にことづけた。何気なく彼女に手渡そうとして持ち上げたとき、その重さに驚いた。これを何か袋に入れて振り回せば確かに遠心力を借りて、相当の力になるだろうと思った。まさに映画で見たように殺人まで起こすことが出来る武器に変身するだろう。どの様なかけ算をするのか忘れたが、衝撃はかなりのもので頭蓋骨など簡単に破壊できるだろう。多くの人の善意の集まりからなんてことを連想したのかと思うが、余程当時のそのシーンの印象が強かったのだと思う。 その薬剤師が面白いことを言った。彼女が勤めているのは小児科の前に開局している調剤薬局なのだが、最近は8歳くらいまでは医療費が無料だから、親がお金を持ってこないのだそうだ。勿論持っていても必要がないから財布を手に取ることはないのだそうだ。だから当然お釣りを返すという行為もなくなる。従って寄付をするタイミングがないそうだ。僕の薬局で沢山の寄付金が集まったことを喜んでくれたが、実はそう言った面白い事情もあることを知った。犬のことはおいといて、お金を払わずに病気を治してもらうことが果たして子育てや社会常識の会得によいこととは決して思えない。権利ばかりを口にする親や子を製造している一つの原因だ。戦争なんかしなくてもいずれこのまま行けば国破れて山河ありだ。1票欲しさにばらまいて、失ってはいけないものまで失わせた馬鹿達が又復活しようとしている。その馬鹿を真似た馬鹿はもう去っていく運命だが、得体の知れない馬鹿にまた希望を託す馬鹿がいる。 あれだけの硬貨があれば昔取った杵づちで、パチンコ屋にちょっと寄ってお札に換えてあげれるのにとこれ以上ない馬鹿を考えた。人はその昔僕のことを禁断の馬鹿と呼んだ。