間違い

 あわただしくかき込むだけの昼食中に、何気なく見ていたテレビニュースのことだから正確な数字は定かではないが、高梁地方のブドウ生産農家の数を650軒と言っていたように思う。2度その軒数を聞いたから恐らく大きくは間違ってはいないだろうが、それにしても同じ志の人が600軒以上もあると言うことは心強いだろう。 一つの市で、同業者がそんなにいるのは珍しいのではないか。まして高梁市のように地方の市でその通りなら、ほとんどがブドウで生計を立てていると言っても過言ではないだろう。町も今訪ねればブドウだらけで、車で走ればブドウの香りが匂ってきそうだ。何の品種かそれこそ耳に入っていないが、甘くて大粒で種なしだと言っていた。出荷額も大した数字だったから、どの農家も専業でやっているのかもしれない。もし僕の食べながらの情報が正しかったら、大したものだと思う。そして何よりも羨ましく思う。      僕の町はと言えば、農家もあり、漁師もいて、商店もあり、宿泊業はホテルからペンション、民宿から旅館と何でも揃っているが、一つのもので全てを語る程の特化したものはない。色々あって、便利なような物足りないような、なかなか判断が難しい。一つのことで町の全てを語ることが出来るような4番打者は昔も今もいないのだ。だから自分の住む町を一言で語ることは出来ない。  色々なところで企業城下町が壊滅的な打撃を受けているニュースも聞く。観光に特化した町も放射能が降ってくれば一巻の終わりだ。名もない雑草の集まりは強いかもしれないが、時には名前のある花にもなりたいものだ。誰一人落ちこぼれることなく、そこそこの生活が出来る町を維持することに少しでも役に立ちたいが、たかが薬局ではどうしようもない。一つ間違えば歌手か俳優になっていただろう僕だが、二つも三つも間違えてしまったから、たかが薬局のたかが薬剤師になってしまった。間違いは一つに限る。