選果場

 僕みたいな素人は必死で皮膚病変を見せてもらわないと方針はたたないのだが、さすがに専門家は違う。皮膚を全く診ずに診断し、薬を投与してくれたらしい。おまけに呼吸困難になって死んだら困るでしょうなんて言われるから患者さんは必死だ。蕁麻疹と診断されて医師の言うとおりに治療していたらしいが全く改善しない。蕁麻疹は薬が結構効くから効果を実感できやすいのだが、一向に効いてこないから患者さんもさすがに不安になって電話をしてきたのだろう。 患者さん自身の症状説明と蕁麻疹と言う病名が全くくっつかない。説明を聞いていれば単なるダニに数カ所やられただけではないかと思えた。夏服から露出したところが手足それぞれ数カ所、ダニにやられて痒いだけに思えた。そんな格調の低い見立てを信じてもらえるかどうか分からないが、実際の症状をそれこそ見させていただけば僕の方に軍配が上がるのではないかと思った。ただ僕が如何に福山雅治に似ていようが、単なる田舎の薬局の薬剤師でしかないから説得力がない。まして「ダニにやられたんじゃろう」ではありがたみも何もない。 でも皮膚科で皮膚を診ずに患者の言葉だけで診断できるのだったら電話で相談を受けた僕と変わりない。薬局は何でも屋だから、牛窓の海水浴場のように知識は遠浅だが、頼ってきてくれる人を想う心はリアス式海岸だ。もう少し僕の顔がよかったら今頃は医者になって、高度な専門性を生かし、手抜きをしまくって高収入を得ていたかもしれない。何がなんでも必死で頑張らないと人並みになれないように、昔、選果場で並のラインに乗らされたのだろう。