習性

 「お薬を飲んで、いつかよくなることを願います。今日は七夕やけん、願い叶えてほしいです。(笑)」  なるほど今日は七夕で、願い事を短冊に書く日だったんだ。半世紀以上前に恐らくやっただろうことを今再現する気はさらさら無いが、冒頭の若い女性のメールを読んでいて、本当に彼女の願いが叶えられればいいのにと思った。  僕の願いは年に一度のチャンスに頼んでかなえられるほど少なくないから、もう手を合わせる前から諦めている。一つや二つなら謙虚だからかなえてやろうかと思えわれるかもしれないが、100や200もあれば聞く方もお手上げだろう。 世俗の垢まみれになって1週間に一度綺麗にしてもらおうと思っていたが、どうやらそれでも追いつかない。家庭用の洗濯機では僕の精神は綺麗には出来ないみたいで、業務用の強力なものでないといけないらしい。寧ろ汚れた衣服のまま高圧の除染機くらいの方がいいのかもしれない。もっとも除染なんて実際には出来ないらしいから、僕も無理だろう。いつか出来もしないことの代名詞に「除染」と言う言葉がなりそうだ。  何にものめり込むようなことがない、どちらかというと淡白な僕だから、結構物事を客観的に見ることが出来る。そんな僕があるところに結構通ったのだからギネスものだが、いつもの習性で見なくてもいいものばかりが目に入りだした。おかげで得意のブレーキを踏むことが出来たが、ハンドルはまだ遊びのままだ。そのハンドルを簡単に切ることが出来るほどの失望はもうすぐそこにある。ただ、今の僕の最大の関心事は、雨に濡れながら巣の近くの電線に乗って「チィ、チィ」と鳴いていたツバメの雛が無事孵ることだけだ。