嫌み

 どうして僕がこの国を代表して、かの国の若い女性に怒られなければならないんだ。 二人は、週に1,2回、薬局を閉める頃に突然かの国の料理を持参してくれる。最近は僕の舌も独特の香辛料に慣れてきたのか、以前ほどの拒絶感はなくなった。まだ心から美味しいとは言えないが、顔に本心を出さずに「美味しい」と言う努力もさほど必要なくなった。  薬局を閉めて2階に上がり僕はこたつに足をつっこんで料理を待つ。妻の料理を彼女たちは少し手伝ってくれる。僕はテレビを見ながら待っている。逆に、お開きをした後も、後かたづけをする3人を尻目に、僕はテレビを見ている。この様子がどうも彼女たちには許し難い、理解しがたいものらしい。ベトナムの男性は料理を一緒に作ったり、後かたづけもするらしい。微動だにしない僕をどうやら日本人男性の典型と捉えているらしく「ベトナムノオトコノヒト、ヤサシイ」「ベトナムノオトコノヒト、オクサンアイシテル」などと嫌みを言う。片言の日本語なのに嫌みの部分はしっかりとこちらに伝わる。  自分では決して古いタイプの人間ではないと思っているが、どうやらそれは思い過ごしで、その典型像に迫りつつあるらしい。日本人でも今の若い人は一緒に家事をしたりしているよと答えたが、なにやら言い訳がましい。それはそれで腰の重い僕が歯がゆいのだろう。どうやら、一端帰国後又勉強のために日本に来たいと言う女性に「日本人と結婚したら」と勧めたときに、愛想笑いの一つもしなかったのは、僕を見てのことだったのだ。  彼女たちが帰国した暁には、「日本の男の人は・・・・」と色々なところで話をするだろうから、日本人男性の評価は下がってしまう。そのおかげで僕は「日本を駄目にした男100選」に選ばれそう。