安易

 これはないだろう、せっかく期待して買ったのに。これさえあればかの国の人と簡単に意志疎通が出来ると思ったのに、無駄に時間ばかりがかかり、実りがほとんどない。出来ればリコールしたいくらいだ。  自分が言いたいことは「ちょっと待って」と言って、うつむき加減に小さなキーボードを叩く。相手の言うことが分からないときはそれを手渡して同じようにキーボードを叩いてもらう。夢の携帯翻訳機は1台で14カ国語を翻訳できる優れもので、音声までついている。これで微妙な意志疎通でなければある程度の会話は出来ると思っていたのに、悲しいかな液晶画面に打ち込んだ日本語にたいして、該当なしの連続だ。10回単語を検索してやっと1回かの国の言葉がフィットする確率くらいだ。それもそれが正しいかどうかを身振り手ぶりで確認しなければならない。機械を信用できないのだ。便利どころか無駄な行為が9割だ。  インターネットで捜したのだが、機械音痴が機械で捜したところがそもそも間違っていた。やはり実物を見て買うべきだった。取扱説明書の段階で折れそうになって、今回ばかりはと頑張って使い方を理解したのだが、そもそもの機能がこれでは、何万語の翻訳可能といううたい文句がひょっとしたら誇大なのではないかと勘ぐりたくなる。  まあ安易な方法をとろうとした僕がいけなかったのだが、今更本気でかの国の言葉の勉強など出来ない。諦めろって事なのだろうが、こうなれば言葉ではなくジェチャーの腕を磨こう。どこかにパートタイムの、いやパントマイムの教則本がないかな。