抑肝散

 テレビの力は凄いものだ。ましてNHKならなおさらだ。朝の番組で漢方薬について放送したら何人かの問い合わせを受けた。ある処方が痴呆に効くというのだが、痴呆に効くのではない。痴呆の中の特定の症状をとることに利用できるってことだ。医者が使う場合、効能というとらえ方をするから自ずと痴呆の薬になってしまうのだろう。 30年も前からその薬を僕も患者さん達に使っているから、何を今更と思ってしまうが、僕らは病名では使わない。病名にこだわってしまうと効果が出ない人が沢山出て、せっかくの薬草が無駄になってしまう。僕が恐れているのはまさにその事だ。効果を享受できる人が出ることは勿論歓迎すべきだが、どうせ闇雲に患者さんに投与されることになるだろうから、資源が又捨てられることになる。どうも最近はNHKも受け狙いが多くて、民放なみの低俗番組を作ることが増えた。まあ、震災後、あれだけ原子力発電が安全だと言いふらしたことを反省もしないのだから、品性に期待するところはないが、もはや受信料を請求する権利はないと思う。  取り上げられた漢方薬は癇を抑える処方(抑肝)だが、そもそも自分たちの癇を抑えろと言いたい。朝からハイテンションでくだらないタレントを並べて、薄っぺらな言葉が行き交う。せめて金を取るところならもう少しましな番組を作れと言いたいが、あるディレクターなるものを知ってから、そんなことは期待しても仕方ないのだと思った。踊る阿呆なら見る阿呆、どこかのお囃子のようにリモコンと化した自分が空しくなる。ああ、こんな時こそ抑肝散か。