雨宿り

 元々夢などなかったから、何も叶ってはいないのだけれど、不幸感がないのは誰にも媚びずに生きてきたおかげだと思う。尊敬する人は少々、軽蔑する人も少々巡り会ってきたけれど、尊敬するのに媚びはいらない。そのくらいだから経済を媒体にして、何か利益をもたらせてくれそうな人にも全く媚びなかった。だから誰もお金にまつわることで僕に益をもたらしてくれた人はいない。それどころかそう言った会話は誰ともしたことがない。  誰にも媚びないから価値観を偽ることも曲げることも必要なかった。このことは人生に結構大きな影響をもたらすと思う。それこそ本当に生きるのが楽なのだ。自分の思っているとおりに行動し、結果は当然自分で引き受ける。当たり前のことだが、この当たり前が身に付いていてくれたことは大きかった。  大きなことを目論んで、例え大きなことを為し遂げても、行き着くところは同じだと思ってしまう。そう思ってしまうから、自分を変えてまで何かを企もうとは思わない。ほんのちょっとしたことで喜ばれ、ほんのちょっとしたことで哀しまれ、それで十分だと思う。偉人がいなくなっても、凡人がいなくなっても、山は山であり続けるし、川は下流に向かって流れ続ける。何もなかったかのように、海も波を静かに立て続けるだろう。人生なんて所詮軒下の雨宿りと思えば、重たすぎる雨を忌むのも又良い。