褒美

 身体も古いが、考え方も結構古くて、その年に誰の薬を最初に作ったとか、最後に作ったとかは気になる。それで何かが占えるわけではないが、何となく験を担いでしまう。 そう言った意味で、今年最後の県外の方の薬は過敏性腸症候群の薬だし、来店してくれた方の薬は鬱(ウツウツ)だったから、何となくいい終わり方になった。どちらも今の僕の薬剤師としてのモチベーションを高めてくれている疾患だ。田舎の薬局だから、骨格系の痛みの患者さんが圧倒的に多いのだが、上の二つも恐らく都会の薬局なんかには負けない数の人達が訪ねてきてくれていると思う。同根の素因を持つ疾患だから、症状が重複していることも多く、僕の作る漢方薬で二つが並行して改善して貰えることも多い。 初日の出も見ない僕が、一昨日東の空に巨大なオレンジ色の太陽が昇ってきたのを見た。元旦の朝に見れば思わず手を合わせたくなるのかもしれないが、その大きさに驚いて、ありもしない科学の知識を動員したが、驚き以上の解釈は出来なかった。昇る陽に希望を感じることはなかったが、希望を持たないことこそが生き抜くに必要な時代になったのではないかと思ったりした。絆などと美しい言葉が飛び交ったが、そんな言葉の一欠片も落ちて来ないところで暮らしている人は、あの日の前も後も同じ数だけいる。世の中がまさかより不幸を求めているのではないだろうが、身の丈を知り、目の届く、手の届く範囲での気恥ずかしいくらいの善意で許してもらいたい。  いずれ医療の世界に入っていく若き女性が、2週間分の僕の漢方薬であの世界を脱出しつつある。とても嬉しい報告をご両親から聞いて今年一年を締めくくることが出来た。よし、今夜は今年一年の自分へのご褒美に養命酒を20ml飲んで食欲を出そう。