無邪気

 ひょっとしたら今年一番のジョークかもしれない。その一言で随分気の重い朝が明るくなり、身体の緊張もとれた。たった一言で真実を、それも一杯内容を含んだものを言い表す能力はたいしたものだ。佐高信はポツポツと話すタイプで、他の出演者ほど雄弁ではないが、真実を突く洞察力は他の出演者より数段秀でている。 彼は福島原発冷温停止宣言を出したノダと言う男のことを「頭がメルトダウンしているのではないか」と言った。僕の口から大きな笑い声がこぼれるのに、0.1秒でもかかっただろうか。ほぼ反射状態で僕は身体中を弛緩していた。100万人の被爆状態を未だ隠し通している男の神経を表現するのにこれ以上適切な言葉はない。正常な状態でのみ使える冷温停止という言葉を、復元しようがないほどに破壊された原子炉の中の状態に使う欺瞞を、外国は全部お見通しだ。知らないことで恐怖から逃れようとする当事者だけが、無邪気に信じている。  どうやら保身にきゅうきゅうのこの国のエライ奴らは総じてメルトダウンしているみたいだ。そんな人間に将来を委ねなければならない国に住む庶民であることが情けない。自分さえよければ他人はどうでも良いと言う風潮は、この国にいつの間にか蔓延した外来種だ。ところが外来種にやられている弱い動物は、より惨めになることを嘗て経験したにもかかわらず、同じ轍を踏むが如く声高に叫ぶ男を関西の方で支持してしまった。  切り開くべき道を持っていない多くの人達は、二股に分かれた三叉路で立ちつくす。用意された道に未来はなくてもどちらかを選択しなければ仕方ないのだ。行くも地獄戻るも地獄ならぬ3方地獄だ。放射能の降る町や森や畑で数年後、どんな不幸が待ちかまえているのだろう。メルトダウンしている頭の持ち主を銘記しておかなければ。