大手

 外に偶然出ていたら、ある男性が声をかけながら近づいてきた。嬉しそうな顔をして喋ってくれた内容が、その表情とは裏腹に深刻だ。当の本人は深刻さにほとんど気がついていないのだが、若干ふらつくという症状が少しだけいつもとは違うかなくらいの気付きはあるみたいだ。血圧の上が210、下が110ある。こんなに高かったら、大手の工事では上に上がらせて貰えないから困ると言う。高いところでの仕事をする人だからそれはさすがに困るだろうと思うが、困る以前にすんでしまうよと脅かした。少しは、いやいやものすごく脅かさないと腰を上げるような人ではないから、こんな場合は最大級の脅しが必要だ。それにしてもこんな場合は「大手」と言う言葉がひどく存在感を増す。その反対の小さな現場だったら、高血圧でめまいがして転落しようがなにをしようが問題にならないような意味も含んでいるように聞こえた。田舎の小さな会社だから、下請けの下請けのまだ下請けのと言うくらいかもしれないが、大手の威光は絶対なのだ。これと同じような力関係で町全体が買われ、危険と隣り合わせで生きていかざるをえなくなった田舎町がいくつもある。幸運にも僕の町では、高いところから落ちる高血圧者を心配するだけでいいが、幾万の命を担保にさしだしている町はかなわない。 監督官庁にだけは形ばかりに尻尾を振り、庶民には牙を剥く。そんな今も昔も変わらない大手に今こそ「王手」をかけなければならない。