紙オムツ

 癌を患っている男性が自分で定期的にパンツ式の紙オムツを買いに来る。術後自分が履くのを家族がいるのに買いに来る。もっとも車にも乗れるし仕事も出来るのだから、買い物くらいはなんでもない。おおらかな人で自分の症状を事細かく説明してくれる。 昨日来たときに「便利なものがあって助かるねえ、昔だったら大変よ」と言うと「そうなんじゃ、昔の人はどうしとったんじゃろうかと思って○○のおじいさんに聞いてみたんじゃ。」と、偶然にも常日頃僕が疑問に思っていたことを彼も又感じていて、ある老人に尋ねてみたらしい。その老人は「昔は寝込んだら2ヶ月もしないうちにみんな死んだ」と答えたらしい。そう言えば僕の祖父母も数日寝込んだだけで自宅で亡くなった。意識を失っても病院にも連れて行かなかった。往診を頼んだだけで何となく数日のうちに亡くなった。予想される工程を足早に通り過ぎたような記憶がある。その老人のなんともシンプルな答えに、医学の進歩や現在の生きながらえる為の環境の整備の功罪が頭の片隅を過ぎった。  ある統計では女性は7年、男性は5年くらい人の世話になりながら人生の最期を迎えるらしい。本当にそんなに長い期間患うのだろうか余りぴんと来ない数字だが、老人の言う2ヶ月に比べれば余りにも長い。何を持って幸せというのか、何を持って不幸というのか分からないが、生きながらえることだけが唯一の作業では苦しいし空しい。目的があるのかどうか知らないが、医学の進歩や環境の整備を上手く利用し、豪快に笑いながら大きな紙オムツを両手にぶら下げて出ていく男性の後ろ姿に、忘れていた光景を重ね合わせた。