キジ

 随分以前のことになるが、僕のバレーボールのチームにいた若い男性がおもしろおかしく言ったことがある。彼が住んでいる粟利郷と言うところは牛窓でも一番辺鄙なところにあるが、その事を自虐的に表現したのを、今朝車を運転しながら思い出した。  「岡山で邑久郡ですと言うと田舎だと馬鹿にされ、邑久郡牛窓町というと田舎だと馬鹿にされ、牛窓で長浜と言うと田舎だと馬鹿にされ、長浜で粟利郷と言うと田舎だと馬鹿にされる、どうすりゃいいんじゃ」と確かバレーボールの試合の打ち上げの時に嬉しそうに言っていたことがある。彼はその馬鹿にされる田舎が好きで、田舎の人が好きで、Uターンして帰ってきたのだが、この田舎町ギャグで打ち上げの席を盛り上げていた。その彼が好きな田舎の自虐ネタの神髄を今朝垣間見ることが出来た。  その長浜の粟利郷に接する辺りに牛窓北小学校がある。今朝早く校庭の放射線濃度を測りにいっての帰り道、道路をキジが歩いていた。さも知ったかぶりに迷わずキジと書いたが、尻尾がかなり長かったからきっとキジだろう。まさかキジが牛窓にいるとは思わないから、結構感動ものでスピードを落としてゆっくりと通り過ぎた。僕の車が近づいているのを知っているはずだが、人に慣れているのか、車に慣れているのか慌てる様子はなかった。キジでこれだけ感動したのだから、あれがクジャクだったりしたらもう慌てふためいてauのお店に携帯電話の契約に走るだろう。  そうしてみると彼の言うように、牛窓町の中の牛窓地区の中の紺浦は都会だ。早朝毎日歩いているが、烏がツバメの巣を狙うか、ゴミをあさるしかの光景しかない。早朝のすがすがしい空気の中で一番に弱肉強食を見せつけられてしまう。否が応でもこの社会の弱肉強食ばかりを見せつけられているのだから、せめて自然界では命を慈しむ光景を見せてほしい。