ハンディー

 ハンディーはいくつもある。まず英語。フィリピンの方達の指名だから歌詞も綺麗なのだろうが、何が詠われているのか分からない。次に曲。初めて聴く曲だし、自分で感銘を受けたメロディーでないから全然頭に入らない。だからどうあがいても宙で歌えない。そして決定的だったのは、歌詞につけてくれていたギターコード。どうもこれが怪しくて、合っているような、合っていないような。 クリスマスのミサの後の会食でフィリピンの方達がコーラスを披露してくれるのだが、1ヶ月の猶予でとても伴奏なんかしてあげられそうにないと思っていたら、なんとユーチューブにギターの弾き語りをコードの解説付きでやってくれている投稿があった。白人青年が何を思って投稿したのか分からないが、東洋の国のしがない中年男性が、まさか赤ペン片手に食い入るように何回も何回も聴いているとは思わないだろう。おかげで今日やっとコードと歌詞が一致した。これでなんとか間に合うのではないかと胸をなで下ろしている。 先週伴奏を頼まれてから、優に100回はそのタイトルの曲を聴いている。色々な人が、それこそプロのものから素人のものまで投稿してくれていて、これがなければ、クリスマスの手伝いのみならず、毎週の教会でお手伝いなど出来ていないだろう。全く知らない曲を、この年齢になって覚えるのはかなりの労力と時間を要する。いや、おそらく年齢のせいではなく、元々自分の志向に合わないものは昔から極端に覚えるのが苦手だった。僕はブロッキングが得意で、興味の対象外のものを遠ざける能力には恵まれていたのかもしれない。おかげでない頭をいらないことに分散して使う苦労はなかったが、数学、物理、英語、歴史、古典、生物、ほとんどの教科をブロッキングしてきたおかげで、入試では点数までブロッキングしてしまった。 恐らく、パソコンが得意な人だったら、その投稿者にお礼のメッセージくらい届けることが出来るのだろうが、僕には出来ない。何を思って、こんな事をしたのと問うてみたい。この唄を歌いたい、弾きたい人がいるだろう、でも上手く歌えない、上手く弾けない人がいるだろう、そう考えたのだろうか。あるいは、心酔するその唄を世界の人に歌って欲しいと思ったのだろうか。まだあどけない顔をした青年の真剣なレッスンは、地球を駆けめぐり、地球に線引きをして、結局は我欲の実現のために人々を利用している奴らより、遙かに崇高で、あるべき未来を語っている。 power of your love