質問

 いわゆる有名私立中学に在籍している甥の息子、関係をどう呼ぶのが正しいのか分からないのだが、たらこ?インコ?明太子?大和撫子?はと子?からの質問だ。中学生でこんなテーマを選択し、夏休みとは言えわざわざ遠路やって来て取材し、論文にまとめるのだから、有名たる所以も理解できる。その種の一貫校に縁がなかったから、どちらかというと否定的な印象を持っている僕だが、彼の物言いや純粋さに最近は僕も考えを変えている。折角の質問だから物を斜めに見る癖そのままに僕の考えを伝えようと思って以下のような返事をした。返事を聞いて質問する相手が違ったと思ったかも知れないが、必ずしも偉い人達の考えが正しいとは言えない今の時勢に、下から見える風景を伝えてみたかった。熱心に彼はメモをとっていたが、どのくらいの作品になるのか楽しみだ。

 主な質問の内容は、 ・薬事法改正に反対か賛成か ・薬事法改正によって生じたメリット ・薬事法改正によって生じたデメリット ・これからどうなってほしいか

 薬事法の改正には反対だ。そもそも何のための改正か分からない。ごく普通の薬局を利用していた人達はそれまでなんら支障はなかったはずだ。何か問題があったとすれば、ドラッグストアやインターネット業者を利用していた人達だったはずだ。セルフという名前の陰に隠れて、薬を物扱いにして多く消費させることだけを考える業者経由だ。本来はそれらに関しては法律を厳密に執行するだけで良かったはずだ。 国民の健康を担保するという大見栄の陰に隠れている事の方が寧ろ本質を突いているかもしれない。それはドラッグストアーに於ける、薬剤師を雇わなければならないための高額な経費を、販売者という根拠の希薄な肩書きを作り安上がりに薬を販売しようと言う思惑だ。彼らにとって、目の上のたんこぶがインターネット販売業者だったのだ。だからインターネットによるワンクリック販売を何とか阻止しようとしたのが、郵便販売禁止なのだ。ところがこれが思いもかけないことを誘発してしまった。本来薬局は、患者さんが訪ねてきてゆっくりと症状を聞き薬を選択する事を日常的に行ってきていた。薬局に来られない人からは電話がかかり、相談して薬を自転車で届けていた。それが交通手段の発達により、距離が地域から県内に、県年から県外に広がっただけのことだ。だから店頭に来ようが、電話で配達を頼まれようが、県外から郵送の依頼があろうが、やっていることは全く同じ作業だ。患者さんから出来るだけ多くの情報を集め、より適した薬を選択するのは何ら変わらない。それをあたかもワンクリックで薬を買い物籠に入れるのと同列の扱いをされたのは、ショックだった。昔からある薬局の期待のされ方、それに対する懸命の努力を目の当たりにしたことがない偉い人達が決めた机上の対処法だ。  特に薬局製剤という薬を作る権利を有する薬局は全国的には数が限られている。ましてその権利を有効に活用している薬局なんか実はほんの一握りだから、全国津々浦々でその薬が手にはいることが出来るのは、郵送という手段以外にはあり得ない。病院ですべての病気を解決して貰えることはありえない。現代医学で救われなかった人が漢方薬で救われるのは僕にとっては毎日目にする光景だ。僕の薬局には毎日多くの悲鳴が届くが、あの悲鳴を受け止めることが出来るのは、忙しくて3分で診療を終える病院だろうか、自分で棚に向かって売れ筋商品の中から探し出す全く選択肢のない作業だろうか、それとも深夜パソコンに向かいクリックを重ねることだろうか。  薬局はこの10年以上国の施策のおかげで医院の前でマンツーマンの業務をすれば楽に稼ぐことが出来る。医師の方を見ていれば生活は保障される。現代医療の狭間で取り残される人達に手を差し伸べることが出来るのはいったいどの業者だろう。  薬事法改正?によってのメリットは思いつかない。デメリットは上記の通り救われない人達が漂流することだ。これから希望することは、薬局を開設し、毎日勉強を繰り返している薬剤師を信頼してほしいってことだ。人を助ける手段を奪わないでくれって事だ。