開店

 銀座にアメリカの服屋が開店し、1000人以上がオープニングセールのために並んだかどうかなど、どうでもいいことの筆頭だ。それをニュースなどで流すことがよいのだろうか。公共の、これが今では一番怪しい枕詞なのだが、電波を使って1企業の宣伝をしてやっているようなものだ。あれくらいの露出をすれば数億円の宣伝費をかけたのと同じくらい、いやそれ以上の宣伝効果があるだろう。 よせばいいのに買い物客にインタビューをし、「30着買っちゃいました」なんて答えを引き出している。テレビのインタビューは局が欲しがる答えを流しているはずだから、飾ることしか興味ないのかと言いたくなるような軽い女の子の映像を流していた。こんな映像を流されたら、田舎で日焼けして汗の臭いがするTシャツ1枚で畑仕事をしている若い女性は浮かばれない。いやいや逆に浮かばれるか。見る人は見ていて、外見を着飾ることしかできない人の中身の無さと、外見を飾る必要がないくらい中身が詰まっている人の充実ぶりは西瓜の中身を当てるより簡単だ。  電話の向こうで良く僕が使う言葉、「過敏性腸症候群になったからこそ得たものもある」って言葉を感慨深く口に出した女性がいる。その女性は負けることがとてもいやだったのだそうだ。それが僕の漢方薬を飲み始めて、症状が改善されるに従って健康的な暮らしを心がける方が大切だと気がついたのだそうだ。スリムで冷え性の女性が、常に勝ち続ける気力も体力も持っているはずがない。どう見たって戦うことが得意な体型ではないのだ。だからそんな人が戦うこと、負けないことを放棄したのはとても理にかなっていると思う。元々架空の敵を作って戦うには適していない人なのだ。そんな人が戦いのモードをもし持続したら、体か心を壊すに決まっている。  優しい話し方をする女性だった。いつかきっと完治すると思うが、その後又彼女が戦場に赴かなければいいがと思う。真面目も裏返せば不器用が透けて見える。きっと彼女もその様な人なのだろう。完治したら服屋の行列に並ぶ人になるのか、Tシャツ1枚で汗をかきながら働く人になるのか分からないが、「完治したらボランティアをします」と言っておきながら遊びまくっている人もいるから、中間あたりで自由を満喫してもらいたい。