不健康

 目をつむってその場で足を大きく上げて足踏みを50回くらいする。最初にいたところからどのくらい離れているかで、その人の血管の衰え、特に脳血管の硬化が分かる。何かで見たことがあり、それを再現してみたら結構方向がずれて、距離も元いたところから50cmくらいは離れていた。もう10年も前のことだと思う。さすがにまだ動脈硬化には早い年齢だから、敢えて気にすることはなかったが、この歳になってやってみるとそれ以上にずれている。 自然現象だから仕方ないかと思っていたら、テレビの番組で同じように目をつむって大きく手を振りながら足踏みをさせている光景を見つけた。そして指導者が、大きくずれた人達に、骨盤がずれていると指摘していた。僕はその場面を見て、こちらの方が遙かに説得力があると思った。これならありうると思ったのだ。動脈硬化説にはどうも納得できなかった。長い間そうかなと思いながらも確信が持てなかったから、人に伝えることもしなかった。知ったかぶりをして軽率な振る舞いをしなくてほっとしている。  もうなりを潜めたけれど、一時エセ科学がもてはやされた。一見ありそうな作り話がまことしやかに本になったりしていた。僕は都合の良すぎる話は信じないたちだから、その手のものに騙されるようなことはないが、喋りすぎの本やテレビに簡単に乗せられる人は後を絶たないだろう。長寿社会に必然の健康不安に乗じて、不健康な意図で不健康な商品を不健康な値段で不健康な合法手段で売りさばいている。健康を手に入れたい人達は不健康の連鎖に巻き込まれ不健康になる。  僕は高校生の時、鎖骨を折り、予備校から大学卒業まで6年間パチンコ台の前で体をよじって張り付いて、牛窓に勝ってから30年、バレーボールの試合で堅い床の上をアタッカーとして飛び続け、結局は身体中歪みきって骨格系がずれまくっている。だから目をつむって歩むと大きくずれるのだ。  これだけ体の骨格はずれたのに何で薬剤師としての骨格はずれなかったのだろう。立地や才能に恵まれず、ただ愚直に目の前に現れた人の苦痛を漢方薬で少しでも取ってあげれたらと思ってやって来ただけで、その不器用さが結果的には良かったのかもしれない。