根拠

 身の毛がよだつような話だが、これが実際だろう。  すでにテレビニュースや新聞で見た人も多いだろうが、日本皮膚科学会が男性型脱毛症の診療指針を初めてまとめた。それによると強く勧められるのは、フィナステリドの飲み薬とミノキシジルの塗布剤だけだ。後は全て十分な根拠がないか、それ以下だ。それ以下というのは、根拠がないから勧められないと言うものと、人工毛植毛のように行わないように勧められると言う惨憺たるものだ。要は世界的に治験データが認められているのはたった2つだけってことだ。  この発表を見て色々なものにお金を捨てさされた人達はどう思うのだろう。田舎の薬局なら全員が顔見知りだから、それこそ会わす顔が無くなる。ごめんこちらの知識不足でしたと謝らなければならない。運のいいことに、眉唾物を見抜く力は備わっているので、怪しげなものは扱ったことがない。そのおかげで人を騙してお金を頂いたことがないから、このようなニュースを見ても後ろめたさは感じない。いやいや、この種の商売をしている人達は元々そんな性格ではないからびくともしないだろう。それにしても一所懸命働いて稼いだお金や、年金などでもらった大切なお金を簡単に巻き上げられるものだ。テレビコマーシャルをやっている天下の大企業も、怪しげな所も鵜の目鷹の目おいしい餌を常に狙っている。地球の資源も財布の中身ももっと大切にして、本当に必要なものだけを作り、本当に必要な人だけに届ければ、もっとゆったりした穏やかな生活が出来るのに。  不必要なものを懸命に作り懸命に消費する。それで世の中が回っているのかもしれないが、もう少しスピードを落とし、のんびりと暮らそうよと誰かが声を発してくれないものか。いたずらに競争を煽られて命を縮めてはもったいない。眉唾者が眉唾物を氾濫させ眼力が海底で溺れている。  こんな情けない警鐘を鳴らさなければならないほど騙され慣れている人達に、次回は是非身の毛立つニュースではなく髪の毛立つニュースを届けて欲しい。