弱肉強食

 鳥そのものを観察して楽しむ趣味はまだ無いが、さえずりがどこからともなく聞こえる朝、幾種類かの鳥たちが自由に飛び回る光景を目にすると、僕の戦いの神経にまだ起きないでとお願いしたくなる。長い間同じ環境で暮らしてきたのに鳥の声にも姿にも気がつかないでいた。朝の8時から夜の8時まで判で押したように薬局の中で働いてきた。太陽に当たることすらなかったような生活だから、自然に囲まれたような町で如何にも不自然に暮らしてきた。  カラスからツバメの卵や雛を守ることで我が家は必死だから、鳥の世界も又弱肉強食かと思っていた。ところが毎朝僕の目の前で展開される様子はそれとは全く逆なのだ。寧ろ共存というような表現の方が適しているように見える。必ず顔を合わせるのが、大勢で集団を作っている雀とツバメ。数匹のカラス。時折身体に白い線を持った鋭利な羽をした小鳥。カラスより大きいサギ。時に天高く旋回する鳶。それらが争っているのを見たことがない。僕の勝手な想いでは、大きな鳥が小さな鳥を捕獲して食料にするとばかり思っていた。実際はどうか分からないが、そんな場面は見たこともない。それどころか驚くことに、雀たちが野球のネット上で休んでいるカラスの傍まで飛んでいってかなりの至近距離で一緒に休んだりする。この光景は最初驚きだったが、毎日見ているとほのぼのとした心温まる光景に見えてきて、朝の交感神経への転換をゆっくりとしたものにしてくれる。 僕らは羽を持ってはいないから大空を飛ぶことは出来ないが、頭の中に大きな羽を持っている。何処にも行けて誰にも会えて、良いことを一杯出来る羽を。ところが最近はその羽が傷んでしまって良いことをするために飛び立つことすら出来ない。地上を這い我欲をついばみ弱きの命をいただく。鳥に教えることは何もなし。