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 シャッターを開け仕事の準備をしていると、一瞬のうちに太陽が照りだした。同時に勇み足以来、なりを潜めていた蝉たちが一斉に甲高く鳴き始めた。繰り返される豪雨のニュースに同情を禁じ得なかったから、太陽の出現は嬉しかった。水曜日にはもう天気が崩れると言う予報だから、この2日間で少しでも土が乾いてほしい。 悲惨さは想像力がないと伝わらない。いくら平面画像を音付きで見ても、何分の一も伝わらない。現場では恐怖は皮膚を通して感じ、心臓は破裂するくらい痙攣する。死の予感無くして同じ土俵には所詮立てない。  海が持ち上がって陸を池にし、僕は母と高台に逃げた。夜が明けて帰ってくると家の中はまるで爆弾が破裂したかのように家具が散乱していた。しかし海の水はそんなに汚くはない。沢山の方に手伝ってもらったが、復旧はさほど困難ではなかった。ところが山口や九州の被害はそんな生やさしいものではない。あの重い土が覆い被さって逃げることも出来ずに苦しかっただろうなと、それこそ言葉もない。又家々は、爆弾が破裂したどころではなく、爆撃されたも同然の破壊のされようだ。あれを田舎に残された老人がどうして復旧できようか。ただただ途方に暮れるしかないのではないか。行政の、又地域の仲間達の援助無くして復活できるはずがない。スコップ1杯の泥を運び出すだけで、何回背伸びしなければならないだろう。偉い人達は、人が通らない道など造ってくれなくてもいい。こんな時に一杯お金を使ってもらえれば、庶民も納得する。  日本地図に52万カ所の印を付ければ、印だけで埋まってしまう。「もう集団移転するしかないよねと」といつもの馬鹿が言う。安全な所にいて高給を取っておもしろおかしく視聴率を上げればいい奴らにとって、不幸はこの上ない商品なのだ。ブラウン管から泥の臭いは伝わらない。