幼いときから川は北から南に流れるものとばかり思っていたから、その逆はなかなかイメージできない。山陽で育ち、学生時代も、その後も主に移動するのは表日本だったから、何処に行っても一級河川は線路と直角に流れ南に下っていた。滅多に訪ねたことはないが 北陸や山陰に向かうときに、頭の中で確認しなければ川が北に向かって流れていることを理解することは出来なかった。 幼いときから金は上から下に流れるものとばかり思っていたから、その逆はなかなかイメージできない。子沢山の家で育ち学生時代は倹約を通り越して、しけモクで空腹を紛らわせていた。おかげで体は壊したが心は壊さなくてすんだ。当時得た価値観を後生大事に抱えているが、それがあるから判断がぶれなくてすむ。川上にいくら財を築いても、流れ下るまでの護岸の風景を丸ごと買うなんてできやしない。喜びや悲しみが織りなす風景を円やドルでは語れない。 幼いときから評価は正当にされると思っていたから、コツコツと努力したり、人の眼に触れぬところで懸命を尽くせばいいと思っていたが、まるで俳優のように虚構で身を固め私欲に突っ走る輩の方が幸せを掴むとはイメージできなかった。夢とか希望とか生き甲斐とか、口に出すこともはばかれる人々が、下流でヘドロのように沈殿する。  いつか川が東西に流れ、富める人が多くを与え、苦しむ人が多くを得る町を歩いてみたい。