道具

 さすが政治家だ。地元に暮らす僕が知らないのに初耳なることを教えてくれた。政治にも地元の発展にも余り興味がないから、僕が特別知らないのかも知れないが、知って得しようとも思わない。彼も利権に絡むような人間ではないから、安心して話も聞ける。恩返しが出来るなら何でも言ってくださいと言うが、別に僕がしてあげれたことなど何もない。強いて言えば、ごく普通に付き合うことくらいだ。何ら特別視しないのがいい関係を保てれている理由かも知れない。  牛窓の沖にはいくつかの大きな島がある。その中の一つに都会の青年達が利用している施設があるらしい。それをもっと充実させる算段を考えているらしい。本土から見ると建物らしきものは見えないから、南側にあるのかも知れない。その施設のことでこれから何回も牛窓に来ることになると言っていた。今日は急いでいたが、後で彼が牛窓に来たのに寄らなかったことがバレるとまずいので時間を見つけて寄ったと言っていた。なるほど役人達も一杯来ていたみたいで、薬局の中で腰掛けようとはしなかった。今では僕などとは全く異なる世界で活躍している彼だが、そんな子供じみた理由で寄ってくれたことが嬉しい。  こんなたわいもない言葉で、心が通わせれるのは有り難い。言葉は鋭利な刃物ではなく寧ろ紡ぐ道具だと知ったのは、何となく流れ着いたこの似合わない職業のおかげだ。