メダカ

 裏口に小さな瓶が2つ置いてある。すぐその傍を毎日何回か通るのだが、普段はまず目に入らない。ほんの数十センチ離れたところを通っているのに。ところが昨日の昼は違った。その中で何か動くものを感じたから目がいった。水が温んで数匹のメダカが水面を泳いでいたのだ。結構大きかったから親だと思う。昔、母の里の小川で追いかけていたのと同じだ。数年前に、近所のおばあさんから頂いたメダカで、何世代命をうけついでいるのか知らないが、よくもまあ、こんな狭い空間に閉じこめられているものだと、何故か昨日はすまないように思った。思えば残酷なものだ。水も藻も、教えて頂いたとおり全く替えていない。小川で暮らせば、何処までも流れに逆らって登っていけるし、流れにのって下ることも出来る。色々な生物にも会うだろうし、色々なものも見れる。唯一天敵に襲われないのが瓶の中の利点かと思うが、でもそれは彼らの希望かどうかは分からない。単なるこちらの都合ではないのか。滅多目をやることもしないのに、何故未だ瓶の中に閉じこめているのだろうと自問する。  実は現代社会のいたるところでこの瓶を目にするが、僕にそれを壊す権利も勇気も知恵もない。ただ、そこから飛び跳ねて、本来住むべき所にたどり着いて欲しいと思うだけだ。傷つくこともあるだろうが得るものは大きいだろう。広い世界を知らないのはもったいない。広い世界にしかないものはいっぱいある。ひょっとしたら本当に自分を救い守ってくれるものはそちらの側にあることだってあるのではないか。特に若いメダカには勇気を持って飛び跳ねてもらいたい。