振幅

 血湧き肉躍る日々が人生のどこかであるとそれはそれで良い人生だったと言えるのだろうが、なかなか凡人にはそんな日々はない。血は湧かずに肉は垂れるのがせいぜいだろう。将来の目標を見据えてなどと、つい青年に自分の過去を忘れて教訓じみたことを言ってしまいがちだが、幸運にも僕にはそんな目標はなかった。ほとんど行き当たりばったりだったが、なんとなく大きく道をそれることはなかった。でもそれは決して幸いでもないのかも知れない。大きくそれた人達が結構世の中で評価される芸術家や小説家などのクリエーターになっている。常識に近いところでいくら振幅を増やしても、所詮それは良くあることの範疇から出ることはない。良くあることが大きな感動を呼ぶことは難しく、よくあることは滅多にないことには勝てないのだ。 青春前期から躓いている人は、その躓きを逆手にとればいい。その躓きこそ滅多にないことかも知れないから、よく観察し作品に仕上げればいい。それが出来なければ大切な価値観をそこで得ればいい。成功者には決して気づけない、書けない価値があるはずだ。混沌とした時代にのめり込むように心を奪われるようなことは少ない。貴重な挫折体験こそ、凡人が巡り会える数少ない滅多にないことかも知れない。