希望

 僕が事務方をしている漢方研究会に北陸から参加していた薬剤師が会を辞めた。嘗ては青年だった彼も、やはり遠路はるばるはきつくなったのだろう、体力的にちょっとと理由を言っていた。僕も20歳代で牛窓に帰り、がむしゃらに勉強会荒らしをやったが、さすがに今はそんな体力もないし、行く価値がないものが多くなってしまった。相変わらず、ものの売り方を話し合う研究会?とやらが多いし、多く売る人が立派な人というような風潮がある。企業にとって見ればそれでいいのだろうが、薬局に救いを求めてくる人にはえらい迷惑だ。中には熱心だなと思われるのもあるが、往々にしてマニアックで医師の領域を侵しそうな危ういのもある。医師がどれだけ勉強しているか知らないのか、聞いていて気恥ずかしくなるのも多い。所詮薬剤師は薬剤師、分相応の命に関係ない安全圏のものを扱わなければならない。どんなに気張っても、所詮薬剤師も自分の最期はお医者さんにかからなければならないのだから。  彼は僕の研究会の中では極端に若くて、処方箋調剤もすることなく、漢方専門で間口を狭くした営業をしていた。余程漢方が好きなのだろう。医院の門前に薬局を構えれば簡単に生計は成り立つのに彼はしなかった。僕は薬局はオールマイティーであるべきと思うから、何でも屋さんを目指している。何を使っても皆さんが元気になればいいし、処方箋も縁あって僕のところに持ってきてくれた人のは作る。若い人で、昔ながらの薬局をやる人はもうほとんどいない。門前に薬局を開けば一から人間関係を構築して食っていく努力などしなくてもすむ。医師が患者を集めてくれるのだから。医薬分業は医師との対等な関係があってのことだが、それはまずあり得ない。  いわば背水の陣で漢方薬局を目指したのだろうが、生活の基盤はやっと出来上がったのかな。礼儀正しくて不器用そうで一本気だったから、彼を受け入れてくれる人とはずっとよい関係が保てれるだろう。裏表がないのが一番楽だ。年齢に比例して実力を付けていくだろうが、10年1クールと言われるように、漢方の世界の時計の針はゆっくりだ。僕みたいなイラでない彼の方が、ずっとこの世界にはあっているように思う。いつか又どこかで会うだろうが、その時は実力が逆転していることは請け合いだ。僕はもうすでに人生の下り坂を降り始めているから。先があるって事は、それだけで希望だ。