世界中で1日1ドル(100円)以下で暮らしている人が12億人いるそうな。12億人と言う多さを想像するのも難しいが、100円以下の生活がどのようなものかを想像するのも難しい。泥と小麦粉を混ぜて焼いたパンを食べている国もあるらしい。  暑いから自動販売機で冷えたお茶を買う。眠気を覚ますためにガムをかむ。ソフトクリームをなめながら、ウインドウショッピングをする。こんなたわいもないありふれた行為が、12億人の1日の生活費を超えてしまう。携帯電話でちょっと話すだけ。歩いても行けるところに車で行く。その僅かな時間で、1週間の生活費を越えてしまう。  豊かなことは罪ではない。努力してつかんだものだ。両親の世代、祖父母の世代、その先の世代、みんなみんな頑張った。子や孫のために頑張った。子や孫はおかげでずいぶんと豊になり、豊かさをもたらしてくれた人達がいたことを思い出すこともなく豊かさの中で溺れている。12億人のことなどつゆ想像したこともない。去年買った服は流行遅れだとうそぶく若者に、精神の貧困を見る。落ちた精神は、拾い上げることは難しい。虚飾の豊かさの中にあってはなお。  空腹は300円で満たされる。空虚は携帯で満たされる。豊かさは孤立。帰らない木霊。見上げる空に虹は架からず、肉食の野生が羽音を立てる。12億の絶望が焼けた砂の上に横たわる。僕は今夜、飢えた人達の村ごと、胃袋に放り込んだ。