英会話

 薬局の前に中学校がある。毎夕5時に校内放送で下校を促している。生徒が放送するのだが、新学期から日本語放送の後、英語で繰り返している。いや、断言は出来ない。英語で言っていることが分からないから、繰り返しているってのは単なる想像だ。  ネイティブ以外の英語は、一つ一つの単語は聞きとりやすいが、文章としてはなかなか理解できない。発音なんかは、僕の中学校時代とほとんど差はないと思うのだが、それでも堂々と英語で話をしている。国の中に英語の需要があるらしく、生活の中で覚えた人は強い。単なる受験の手段だった僕なんか、受験が終わった翌日には全部忘れてしまった。もっとも英語以外もほとんど忘れてしまったが。忘れなかったのは、首に当たるカラーの窮屈さだけだ。何であんな不自由なものを生徒に強要していたのだろう。  高校を卒業後、英語で話をする機会もなかったし、必要もなかった。ところがこの年になって、東南アジアの人と同席する機会が増え、英語が話せれたらなと思うことが多くなった。意識して、NHKの英会話の番組を観るようにしたが、半年くらいして気が付いた。半年でたった一つのフレーズも覚えていないことに。15分番組を観て覚えたフレーズは、その後の入浴時間中に完全に忘れている。恐らく10分も僕の頭の中に留まることも出来ないのではないか。結局、電子辞書を買う期間が、半年延びただけに終わったのだが、無駄な努力と居直れる大人であることが後ろめたい。  たどたどしい発音が風に乗って聞こえてくる。その声の持ち主にエールを送りたい。