健康

 肝に銘じていることがある。この夏は、冷たいものを飲み過ぎない。窓を開けたまま眠らない。この二つだ。去年体調を崩した遠因は恐らくこの二つだ。1ヶ月以上不快な日々を過ごしたが、のど元過ぎて熱さ忘れる状態にあることにふと気付き、時折自分を戒めている。  消化器系をとことん弱らせてしまうと、精神まで弱ってしまうのを昨年経験した。何らかのストレスが続き精神が衰弱するのは納得がいくが、胃腸の機能が落ちているところに、ありふれたウイルスでも入ってきて、起きれないような状態が続くと次第に心細くなり、心が病んでいくようだった。目の前に茶碗を持ってこられても、箸を付けることが出来なかった。体力には自信はないが、病弱と言うほどでもないから、ほとんどのトラブルは半日から2,3日で治っていた。そんな嘗ての基準からしたら、1ヶ月あまりの不調は自分でも許容できないものだった。二十歳の身体が一気に老人のそれになったような乖離を感じた。その間の様子は、漢方で言うまさに「脾虚気虚」だったのだが、自分がその状態に陥っているとはつゆ思わなかった。だから自分がその状態だと気づくのにかなりの日数を要した。自分のことは分からないものだ。冷静さも客観性も失ってしまう。  ただ、不愉快で不安なそれらの日々は、僕に又一つの知恵を与えてくれた。教科書の上ではなく身をもって知った症状は、以後数人の方に役に立った。同じような人はいるものだ。一見元気そうに見えて実は、夜は寝苦しくて寝汗をかき、動悸がして眠りが冷め、不安のうちの朝を待っているような人達だ。どこにストレスがあるのだろうと、見事に隠している人でも、症状は嘘をつかない。幸せごっこは、いつかはほころぶ。僕も10月頃はそうだったんだと話すと、堰を切ったように不調の原因を話してくれる。こんな時は、自分が元気すぎないのが役に立つ。症状の理解がしやすいから。  この年になったら健康で毎日を過ごすなんてのは至難の業だ。毎日日替わりで不愉快な症状が出てくる。何とかごまかして日々を送っているが、いつまでごまかしきれるのだろうと不安が増殖する。仕事を辞めてのんびりと過ごせば健康になれるのか、いやな人に会わないようにすれば健康になれるのか、暖かいところに転居すれば健康になれるのか、病気になるほど薬を飲めば健康になれるのか。いやいや、この年まで頑張って働いてきたのだから、どこも悪いところがない健康体だとしたら、それほど不健康なことはないのかもしれない。