受動喫煙

 ガンや循環器系の疾患ならいざ知らず、糖尿病にも受動喫煙は関係しているらしい。受動喫煙が起こりうる環境にいる人は、そうでない人に比べて1.8倍糖尿病になる確率が高いらしい。この情報を目にして「良かった」と胸をなで下ろした。  たばこを止めてもう20年にはなると思う。元々元気ではなかったが、たばこは好きだった。食後の一服は確かに美味しかったし、コーヒーと音楽が揃えば、薄暗い喫茶店の隅で青春を泥まみれにするお膳立ては揃っていた。牛窓に帰ってきて、一応堅気にはなったが、それでも唄とコーヒーとたばこは止められないでいた。年齢と共にたばこを吸うと吐き気がし出した。それでも中毒だから止められないでいた。何度も決心するが、1日も止められないでいた。  そんな僕が止めれたのは、当時まだ幼稚園にも行っていない娘が「お父さん、たばこ止めた」と良く来るお客さんに話すのを傍で聞いたからだ。幼い子供が僕にたばこを止めさせる意図を持って口から出したとは考えられない。止めて欲しいと訴えたのだろうか。父親の機嫌を損なわないようにと配慮するとも考えられない。うそなどまだ付けない幼子の心を裏切らないために、以後懸命に努力して止めた。  あれから、嫌煙の気運が徐々に強くなり、健康被害についても沢山の研究がなされた。嗜好品だから日常的に存在し、市民権を得ているから、いわば最強の壊し屋かもしれない。悪いのは、楽しんでいる本人より、傍にいる人の方が健康被害を受けやすいと言うことだ。 無駄に命を削る必要はない。これだけ不自然が身の回りに溢れていれば、生きているだけでも命は削ってくれる。磁石のように敢えて不健康を集める必要はない。いくら思いっきり口から煙をはき出しても、鬱積した心を吐き出すことはできない。せいぜい昨日ひらって来たレントゲン写真に血痰を落とすくらいが落ちだ。