口癖

 やっぱりなあと言う感想だ。もう何年も前から言われていることだが、やはりコレステロール値の基準が低すぎたようだ。富山大学の浜崎教授の17万人にも及ぶ追跡調査で、コレステロール値が高いほど死亡の危険率が下がるというのだ。例の悪玉コレステロールにしたって、いたずらに悪役呼ばわりする必要もないらしい。もともと、肉食で心臓病患者が多いアメリカ人のデータを持ってきたのだから、無理もない。今まで何をしていたんだと言うことになる。生理活性物質の大切な原料になるものを、いたずらに少なくすると、身体が上手く機能しないだろう。活力に乏しい貧弱な生き様になる。  僕の母など、もう20年近くコレステロールが高いと言われている。350くらいあるのではないかと思う。めっぽう元気だから、薬も飲まない。1年に1回の町の検診で受診を勧告されいやいや病院に行き、そこで又薬を飲まないのは無茶だと叱られるが、必要を感じないから飲まない。ひょっとしたら、薬を飲めと言う立場の人より元気かもしれない。88才になって、頭もさえているし、身体に悪いところもない。  要は絶対的に正しいことなどないのだ。一歩引いてみる癖を付けているのがいい。自分の拠り所をしっかり持っていて、それと照らし合わせながら判断するのがいい。よしんば結果的に的がはずれても、自分の拠り所に従って行動した結果なら受け入れられる。権威にすがっていたのでは、悔やまれる事がある。権威は時として自ら権威を求めることがある。与えられるものではなく、自己目的化する。その時、威は力に変わる。  大した贅沢もせず、黙々と働き続けた世代の人達に、多くのコレステロールの薬が不必要に飲まされ、去勢されたような生活を強いているとしたら、それは一種の見えない薬害かもしれない。「なんかすることはない」の口癖は、高コレステロール血症と僕のほったらかしの親不孝のおかげかもしれない。