万能薬

 これはアメリカの話だが、アメリカで起こって日本で起こらないなどはあり得ない。  全米の24の大都市圏で少なくとも4100万人が利用する水道水から、抗生物質精神安定剤などの医薬品が検出されたらしい。勿論、検出量は微量だから「健康への影響はほとんどない」と製薬業界は主張するが、環境保護局は「懸念が高まっていることは認識しており、深刻にとらえている」と述べている。同じ事実を前にしても立場によって評価は真っ向から対立する。  医薬品を摂取した際に、その成分は人体に吸収された一部を除き体外に排泄されて下水処理されるが、すべての成分は除去できず、自然界に蓄積、循環して再び飲料水として利用するための浄水処理でも除去できなかったという。東部フィラデルフィアの水道水からは高コレストロールや喘息など56の成分が見つかっており、西部サンフランシスコではホルモン剤も見つかっているらしい。  検出量が微量だからと言って、日々延々と口にし続けるのだから、長期間の影響など分かるはずがない。まして油溶性のものは体外に排出されにくく人体に蓄積されやすい。  要はアメリカに行って、水道水を飲めばほとんどの病気は治るって事だ。ありとあらゆる薬が混ざっているのだから。人が飲んで排泄した薬を又飲むのだから究極のエコだ。 国土が狭く、薬好きの日本人がひしめくこの国でも調べれば同じようなことが起こっているのではないか。多くの恩恵をもたらした物でも後世の人には毒になることもある。近い将来、先祖はとんでもない物を残したなと言われるのではないか。山も海も田圃も、破壊しつくしてバトンタッチする、こんな世代は未だかつてなかった。誰かが、もうこのあたりで止めようと言い出さなければもう取り返しがつかないだろう。便利さが分からないほど便利になって、豊かさが分からないほど豊になってどうするんだろう。牛一頭を飲み込むほどの胃袋も持っていないのに。