ホームごたつ

 敷き布団の上にホームごたつを置き、かけ布団はお腹から上にかける。こんな寝方をしたのは何十年ぶりだろう。中学校を出てから下宿やアパートで暮らしたので、10年くらいその様な寝方をしていた。ホームごたつの足が当たる布団の場所は深く沈んでいて、ほこりがいつも溜まっていた。ほこりも年季が入ると綿のようになる。  一見寝心地は悪そうに思えるが、これがなかなか気持ちよい眠りをもたらしてくれる。同じようなことをしている人は結構いると思うが、苦肉の策を越えて、意外と利点は多いのだ。まず足が冷えないので、頭寒足熱が保たれて、頭に血が上らない。と言うことはいらないことも考えなくて眠りが深くなる。また、布団の上げ下げをしなくていいから、面倒でない。いつでも眠りに入れるし、いつでも眠りから覚められる。おまけに、日常の服装のままだから、一日の始まりが素早い。顔を洗い歯を磨けば即、活動開始だ。精神も日常活動も支離滅裂で不合理だった青春時代には、いたって合理的な習慣だった。  久しぶりのその寝方は案の定、とても気持ちよかった。時折目は覚めたが足先の暖かさが心地よかった。4畳半ではなくなった。家賃も払わなくていい。洗面器で番を取らなくても入りたいときに風呂に入れる。寒空でバスを待つ必要もなくなった。ご飯にカップヌードルをかけて食べなくてもよくなった。ねたみ、ぐちり、嘆き、批判するばかりの会話から遠ざかれた。 幸せかと尋ねられれば首を傾げ、不幸かと尋ねられても首を傾げる。リヤカーで引っ越しできる身軽さは手が届かないくらい貴重になり、しがらみの重圧で骨格筋が悲鳴を上げる。体温より少しだけ高い赤外線の温度に安堵する。求めないことがやっと身に付き始め、足を組んだままホームごたつで眠ったあの頃が、屋根瓦を一枚ずつはいでいく。