劣化

 岡山に帰るお金だけは残しておかなければならなかったので、国家試験まで残り数日はほとんど食事代がなかった。先輩は勿論、同級生も前年に卒業しているので、お金を借りる人間がいなくて、インスタントコーヒーばかり飲んで空腹を満たしていた。お腹がすいて、カフェインを常に一定濃度保っていたので、眠れなかったのか頑張っていたのか分からないが4~5時間位しか寝ていなかったような気がする。4年間ごく普通に大学に通い、ごく普通に勉強していれば難なくパスするものなのだろうが、僕ら劣等生にとっては1ヶ月で4年分を覚えなければならないのだから、かなりの負担だった。勿論自業自得なのだが。  コーヒーの中に溶かした砂糖が唯一のエネルギー源だったような気がする。食事代はなくてもたばこ代はあった。フィルターのない「しんせい」ってのを吸っていたから、40円くらいだったと思う。もう少し足せばインスタントラーメンが買えるが、たばこの方が文句なしに優先だった。何であの頃病気をすることなくそれで過ごせたのだろう。やはり若さという生命力なのだろうか。  翻って今は、たった1杯のコーヒーを毎日続けてもすぐに胃に来る。口角が破れ口を開けるのも痛くなる。胃が悲鳴を上げる代わりに口が上げている。見えないところで着々と劣化は進んでいる。注意信号は発せられているが、裏打ちのない空自信が邪魔をする。コーヒーにたばこにフォークソング。感性はとっくに卒業していたが、遅れて今、肉体が卒業しようとしている。