別人

・・・この前授業で津和野まで行きました。汽車の中で、みんなの中に1時間くらい座っていましたが、お腹のことはほとんど気になりませんでした。去年だったら、まず1番離れたところに座っていただろうと思います。それよりも、お腹のことを心配して、行かなかったと思います。本当に、この半年間で随分前に進むことができました。治ったら、今悩んでいる他の患者さんたちに、何か役立てられることがあればいいなぁと思います。・・  今日、薬の注文時の文章だ。治ったら・・・と言うより、もうほとんど治っているのではないかと思った。遠くから3回訪ねてきてくれた人だから、かなり詳しく彼女のことは分かるのだが、このメールを読む限りほとんど別人だと言っても過言ではない。当初、常に何かにおびえていて、ちょっとしたことで涙を流した。備わっている知性も、ほとんど自虐だけに用いられていた。自信はかけらも探すことが出来なかった。清算できない過去を重たく背負い、暗闇を選んで歩いていた。  恐らく彼女が一番変わったのは、他者を思いやる余裕が出てきたことだろう。上の文章の内容は、彼女の口からまず出なかった言葉だ。他人は、彼女を苦しめる存在であっても、共に生きる存在ではなかった。体力、気力が少しずつ充実してくると、当たり前のように存在する友情とか家族愛とかが感じられるようになったのだろう。干上がった彼女の心に水を注ぎ、再び蘇らせたのは過敏性腸症候群漢方薬でも天然薬でもない。夏、彼女が泳ぐのを砂浜で見守った僕の88才の母や、彼女の好きな料理を作った僕の妻や、同じ悩みを克服した僕の娘達の世代を越えた友情だと思う。  愛されることよりも愛することを。ちょっと寄り道をしてしまったが、彼女はきっと立派な大人になる。