渓流

若い女性が、大山の渓流を腰まで浸かって上流へ登って行き、魚を釣っている姿は想像できない。いや、その辺りの知識が全くない僕には男性のその姿も思い浮かばない。原画がないのだ。さしずめアユの解禁の時にニュースで流されるお決まりの光景くらいが関の山だ。  水は冷たいのか、流れは急なのか、鳥は泣いているのか、熊との遭遇はないのか。パーツをいくつ集めても絵は完成しない。ただ2週間たって漢方薬を取りに来てくれた女性の口調が、2週間前に初めて来てくれた時とは格段に軽やかで、また表情も明るく、美しくなったことで、彼女が夢中になっている渓流釣りの楽しさだけは十分伝わってきた。  薬局に来る誰もがどこかに不調を抱えている。それを改善して、より楽しい日常を取り戻してくれればそれにこしたことはないが、不調の中にいても、楽しいことを見つけて果敢に挑戦して欲しい。薬局に来る人は病院に入る程度の人は一人もいないのだから、トラブル以外はかなり元気な人ばかりだ。気が巡れば血が巡り、余剰の水分が排出される。漢方理論なんて単純なものだ。気が滞らないことが大切なのだ。  渓流とまではいかないが、疲れたら人間様と少し離れてみるのもいいかもしれない。なにせ、疲れのほとんどの部分は人間が原因なのだから。閉じこもり、引きこもるのは人間様から離れたことにはならない。人工の狭い空間は、おそらくもっとも人間様らしいところだろうから。