この辺りでは余り見かけない大きな灰色をした鳥が、西の空を目指してゆっくりと飛んでいった。2羽が並んで飛んでいった。夕方だから巣に帰っているのだろうか。滅多に見た事がないくらい大きかったので、近隣にすんでいればすぐ分かりそうだ。遠くにすんでいるなら偶然通っただけなのだろうか。  アスファルトの上を飛んでいった。家々の屋根の上を飛んでいった。電線の上を飛んでいった。下界は何に見えたのだろう。白衣を着て見上げている人間は何に見えたのだろう。人は助け合っているように見えたのだろうか。それとも憎しみあっているように見えたのだろうか。笑顔が溢れているように見えたのだろうか、涙で頬を濡らしているように見えたのだろうか。笑い声が届いたのだろうか、罵声が響いたのだろうか。  鳥は鳥で良かったのだろうか。犬は犬で良かったのだろうか。鎖につながれ、散歩に連れていかれ、餌を与えられ水を与えられる。じっと目を見て尻尾を振ることが遺伝子を絶やさない知恵として永遠に受け継がれてきたのか。人は人で良かったのだろうか。