逆転

 ここまで機械音痴だと、もう逆転して弱点が強みになっているかもしれない。 古いパソコンが寿命らしくて、診察をお願いした市の商工会の方の診断はもうホスピスの段階らしい。その方の助言でノートパソコンを購入したら、安売りの最終日に偶然間に合って、僕が買いにショップに行った場合に比べておそらく3分の1くらいの値段で手に入った。インターネットで申しこんだのだが、1週間後に宅急便の方に尋ねたら、今はこの荷物ばっかり運んでいると答えが帰ってきた。この世界に精通している人達は見逃さないのだろう。商工会の方は、その差額でなにか必要なものを買い足すことが出来ると教えてくれた。僕には出来ない発想で驚いた。  パソコンを買う所まではなんとか出来るがその後はサッパリ分からない。使えるようになるなんて思えない。パソコンが届けられたと連絡すると彼は早速、そのパソコンに息吹を吹きかけようとしてくれた。古いパソコンから色々な情報を移すのだが、数時間その作業に集中してくれた。彼がいなければ絶対出来ないことだ。僕などする気にもならない。まして取扱説明書など読む気もない。分からない単語ばかりで、頭の回路は至るところで遮断機が降りている。牛窓の商工会にいつ配属されてきたのか知らないが、降って沸いたような彼の存在がなければ、新しいパソコンに生命は宿らなかっただろう。  僕は苦手なことは徹底して苦手でとおせられる。完全にブロックして関わることすらしない。そのお蔭で僕と違う能力をもった人達が、しばしば突然現れて助けてくれる。分かりもしないから遠巻きにして時々作業を眺めるが、僕にとってはほとんど神業みたいなことをしている。不思議の一言に尽きる。彼の能力が不思議かもしれないし、僕の時代からの後れようが叉不思議なのだ。  ちっとも分からないのは、時としてちょっとは分かるより生産的かもしれない。徹底して苦手もまんざらではない。弱点を逆手にとって生きるのもまんざらでもない。背伸びしないのはとても楽だから。アキレス腱を断絶することもない。つまらない自尊心で人生を断絶することを思えば、恥の一つや二つ、三つや四つ、五つや六つ・・・