幸せ

 なんとなく以前より表情が明るく思えたので「幸せ?」て尋ねてみた。しばらく間があいたが、「幸せ」て返事が返ってきた。そのしばらくの間に果たして何を思い浮かべどう判断したのか知らないが、とりあえず幸せって言う判断に落ちついたのはよかった。正直ほっとしてその後じわっと嬉しくなった。  特徴ある制服の為、僕は彼女がどこでどのような仕事をしているかだいたいは想像つく。流れてくる製品の傷を1日中、目を凝らして探しているのだ。傷物が市場にでないように彼女らが最後の砦になっているのだ。その様な単純な繰り返しのはずなのに何故幸せって言う言葉を肯定したのか尋ねてみた。すると彼女はは2つの理由をあげた。  一つは働き様を認められて、責任を持たされたことらしい。今までは只、指示に従って動くだけだったが、今は小さいけれど責任を持たされるようになったらしい。それが嬉しいそうだ。もう一つは、最近検査である不具合を見つけたらしい。それが出荷されるのを未然に防いで、えらく会社に感謝されたそうだ。この2つの理由で僕に幸せだと返事が出来たらしい。  二十歳をわずかに越えたばかりの女性が、幸せの理由に、会社でのほんの些細な出来事をあげたのには驚いたが、このような社員がいる会社は幸せだろうなと部外者のくせに思いを巡らした。ファッション雑誌から飛び出してきたような華やかさなど微塵もない。小さな車に乗り、うまくはないが丁寧な言葉で喋り、時々はにかんだような笑顔を見せる。土曜日の昼、薬局を訪れるようではさみしいが、懸命に生きていることは良く分かり、懸命に生きて来た人間には郷愁を誘う。  庶民の幸せは、決して華やかではないが目を開き、耳を澄ませば、そこ彼処に転がっていることに気がつく。いつか彼女も僕の質問に間があかずに「幸せ」って答えて欲しい。