南風に乗ってきた貴女に

あなたは 何年か前 確かに存在して 確かにさまよっていた僕そのものなのだ 別に食えないわけではなく 別に友と言うべき者がいないわけではなかった 今日をむさぼる必要はなかったし 昨日に鎮魂歌を捧げる必要もなかった ただ空虚さを 空腹と勘違いして 耳を塞いで 明日の足音を聞かないようにしていただけなのだ

流していい涙は 南からふく風 隠さなければならないのは 北に降る雨 凛としたシルエットは 遮断機が分断する 知の地平線 孤独は歳月を蹂躙し 行き先のない夜汽車は 鉄橋の上で立ちつくす 幸せの定義の前で 絶句して 言葉を寄せ集めるようでは 幸せではない

越えなければならない山があり 渡らなければならない川がある 辿り着くには 辿り着かなければならない訳がある 捨てるだけなら 歩むべき道は要らない 倒された道標にも蔑まされればいい 貴女は確かにあの頃の僕で 迷路の中でなお迷路を探し続けていた僕なのだ