風景

昨日、児島湾大橋を渡っているとき、いつもと違った何かを感じた。結構高い橋の割には欄干が低いので、緊張して車を走らせるのだが、何か視界の中に違和感があった。それを確かめなければならないような気になって、僕は視界を正面から一瞬眼下の海面に映した。すると全く波がないのだ。山を映した深い緑の海面になにの動きもない。巨大な怪獣がなりを潜めているようだった。波もなく横切るフェリーの姿もなく、動くものもがなにもなかった。  橋を渡って玉野方向に今度は堤防で淡水化された人工湖のほとりを走る。そこでもやはり違和感が伝わってきた。今度は顔を横に向ければ簡単に湖は見える。するとさっきと同じように全く波のない湖面が広がっていた。そしてそれが何か盛り上がっているように見えたのだ。溢れそうな感じで湖面が迫ってきた。  偶然の気象条件がそうさせたのか、或いは僕の心に何かあって、感受性を翻弄されたのか。確かに波もなく平面と言うような表現がぴったしの異様な水面だった。それを僕は生き物のように感じたのだ。それは潜在的な恐怖の現われなのだろうか。何かの不安を抱えているのだろうか。意識はしていないけれど、どうみても安心と希望の中で暮らしているようには見えない。これから肉体はますます加速度をつけて衰え、感受性は水面を一色にしか染めない。  心で見た風景は重く沈黙していた。