タイ料理

 甥の壮行会がタイ料理のレストランであった。勿論僕は招かれた方だ。タイ料理がどんなものかまったく知識はなかった。甥以外は、全員僕より年上だ。一回り以上、上の方も幾人かいた。  席につくと早速前菜というのか、或いはなにか他の呼び方があるのか分からないが、鳥のから上げが出てきた。香辛料をかけて食べればタイ式なのだが、なにもかけないから揚げはまったく日本の味だった。それを数個食べただけで、もう胃がもたれ始めた。前菜で胃もたれするようでは情けない。  メニューを見ながら食べたいものを物色するが、想像もつかないからウエイトレスに尋ねる。皆が異口同音に言葉にしたのは「どれがサッパリしているの?」だった。香辛料が特徴だと言うレストランに食事に来て、あっさりしたものばかりを探している。そもそも来なければよかったのだ。日本食の懐石料理にでもしておけばよかったのだ。僕らの胃袋ではタイ料理は重すぎる。興味本意だけで、実際の胃袋年令を忘れていた。  その後世界の3大スープの1つだというものを食べて飲んだ。ところがスープの具を食べてから口の中が燃えはじめた。具だと思っていたものが海老以外全部香辛料だったのだ。米一粒たりとも残してはいけないとしつけられた僕としては、器以外は全部食べる。その習性が災いして、口の中の火事はなかなか収まらなかった。冷たい水をいくら流しこんでもなかなか収まらなかった。まるで行をしているようだった。  グルメとはまったく逆の位置にいる僕にとって、これも経験と言うような軽いのりでの出来事だったが、いまさら食べ物に淡白な自分が便利だと思った。こだわりがないのはとても楽だ。服にもまったくこだわりがないから、これもまた自由なのだ。目に見えるものではない、形では現せれない心に秘めたこだわりで僕は精一杯だ。