ツバメ

 毎年のことだが、ツバメが薬局の丁度入り口の上で子育てをしている。そろそろ巣立ちが近づいて、窮屈そうに雛鳥達が身を寄せ合っている。今日の午後、その中の1羽が、階段のところにいて羽をばたつかせていた。落ちたのかどうか分からないが、ダメージをおってはいないように見えた。でも飛べないようにも見えた。親鳥達が頻繁に雛の傍に近づいてはけたたましく鳴いている。このままでは猫やカラスの餌食になると思ったので、脚立を持ってきて巣に返してやろうと思った。捕まえようとすると、飛んで近くのフェンスにとまった。しかし、そこは不安定なので羽を常に羽ばたかせていた。又、捕まえようとすると今度は隣のNTTの広場に飛んでいき、敷き詰められたバラスの上に降りた。飛べるのだとは思ったがどうにも頼りない。カラスが来たら格好の標的にされるだろう。僕はNTTの中に入りこみ、雛を捕まえて薬局に戻り、巣に返そうとした。この間、数匹の親ツバメが、僕の数10cmの距離を果敢に威嚇して飛んだ。脚立に上り巣にいれてやろうとしても雛は決して入ろうとしなかった。そして又飛び立った。今度はそれこそ力を振り絞ったのか、NTTの広場を飛び越えて、民家の屋根にとまった。ああ、飛べるのだと安心して僕はそのまま忘れていた。数時間後頻繁にツバメが薬局に入っては又出ていくことを繰り返した。普通の大きさのと、ちょっと小ぶりで尾がまだ伸びきっていない雛だった。おそらく昼、僕が救おうとした雛だろう。僕を威嚇して飛び回った時、僕はツバメが哀れだった。大きな敵が子供を捕まえるのを見て甲高くなき、飛びまわるだけしか出来ないのが。その情景は、僕らが日々人間の営みの中で目の当たりにする光景だったから。この数年とみに強きがより強くなる為の手段を手に入れ、弱きがますます身を守る手段を奪われている傾向が加速している。痛々しいのは、それがわかっていながら改善の道を探れない弱き人達の為す術のなさだ。羽をもぎ取られた人間と言う鳥が、自由に平等に、思いっきり羽ばたける日がいつか来るのだろうか。空は、飛べる鳥達だけのものではない。飛べない鳥にだって光が振り注ぐところなのに。